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- 2024年07月09日
- PRトレンド
カンヌライオンズ2024から読み解く世界のコミュニケーション
世界3大広告賞の1つである「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル」(Cannes Lions International Festival of Creativity)が、2024年6月17日から21日までの5日間、フランス・カンヌで開催されました。
71回目となる今年は、「Luxury & Lifestyle Lions」が新設されたり、「Mobile Lions」が廃止されたりと新しい動きも見られています。全30Lions(30部門)で審査された、カンヌライオンズ2024各部門のグランプリ受賞事例をいくつかご紹介します。
グランプリ受賞事例
まずはPR部門の事例からご紹介します。
The Misheard Version | SPECSAVERS
https://www.youtube.com/watch?v=3M_htJ6lZ04&t=2s
PR LionsとRadio&Audio Lionsでグランプリを受賞しました。
SPECSAVERSはヨーロッパやオーストラリアで展開しているメガネ小売りチェーンです。眼鏡以外に補聴器の販売も行っていますが、補聴器市場でははあまりブランド想起がされていませんでした。また、生活者にとって自分の聴力を疑うことはプライドが傷つくこともあり、聴力検査があまり身近に感じられていない実態がありました。
そこで、1978年に「空耳(歌詞が違った意味で聞こえる)」で話題になった楽曲、 Rick Astleyの‘「Never Gonna Give You Up」の歌詞をあえて「空耳」となるよう一部変えたバージョンを再録しました。
まずは説明せずにSNSでティザーを流すことで、歌詞が違うことに気づく人もいれば気づかない人もいるという、大規模聴力テストの役割を果たしました。その後はRick Astleyを起用した連載を実施し、Rick Astley自身が難聴の経験を打ち明けるコンテンツも展開しました。こうした一連のキャンペーンにより、聴力検査のハードルが下がった、という事例です。
Rick Astleyの同曲はもともとネットミーム化(ネットを通じて模倣、改変、拡散が重ねられて広まること)していたこともあり、SNSで話題になりやすかったのも成功要因のひとつだと考えられます。
WoMen's Football | Orange
https://www.youtube.com/watch?v=DeijPwBIyK0&t=1s
Film LionsとEntertainment Lions for Sport両方でグランプリをとった事例です。PR部門ではGoldを受賞しました。
フランスの通信事業者Orangeは、サッカーリーグのスポンサーとして、男子・女子サッカー双方に同額の支援をしてきた企業です。
男子サッカーファンのうち2/3は、女子サッカーに対して、男子サッカーほどダイナミックなプレーを見ることができないというネガティブなバイアスを持っていることを課題提起し、固定観念を覆すために行ったプロモーション事例です。
女子サッカーのスーパープレイ動画にディープフェイク技術を使い、男子サッカー選手の姿を重ねることで、男子選手のスーパープレイだと思わせました。動画の途中でエフェクトを外し、実際は女子サッカー選手のスーパープレイであることがわかり、視聴者に自らの思い込みに気づかせた事例です。
PR部門以外のグランプリ受賞作もいくつかご紹介します。
Michael CeraVe | CeraVe
https://www.youtube.com/watch?v=6A9zZpEzJi0
Social&Influencer Lionsでグランプリを受賞しました。
Z世代に人気のスキンケアブランドCeraVeの事例です。CeraVeはスーパーボウルの広告出稿にあたり、広告効果を最大化するために、ブランド名と似た名前の俳優、マイケル・セラを起用しました。
マイケル・セラが薬局でCeraVeの商品に手書きでMichaelと書いたり、街角でCeraVeを配ったり、インフルエンサーにMichaelと書いたCeraVeをPRグッズで送っている様子をSNSに投稿したことで、「実はマイケル・セラがセラヴィを開発したのでは?」と憶測が飛び交い、情報が拡散されました。
さまざまな憶測が飛び交う中、スーパーボウルのCMで「マイケル・セラが作ったと思わせていましたが違いました!」というクリエイティブを仕掛け、大きな話題になりました。
The First Edible Mascot | Pop-Tarts
https://www.youtube.com/watch?v=BL1zRhmDcVM
Brand Experience & Activation Lionsでグランプリを受賞しました。
ユーモアあふれる企画をブランドがオフィシャルで行い、大きな反響を呼んだ事例です。朝食として知られているPop-tartsを「イケてるスナック」としてブランディングするために、大学のフットボール大会で「食べられるマスコット(着ぐるみ)」を登場させました。
マスコットが「勝利チームは自分を食べていい」と公言し、実際の勝利チームがキャラクターをかたどった巨大POP-Tartsを食べる様子が動画でSNS上で拡散されて大きな反響を呼びました。
SPREADBEATS | Spotify
https://www.youtube.com/watch?v=Z_lbVlhO9HE
BtoBのクリエイティブでもユニークなものが多くありましたが、こちらはそのひとつです。Digital Craft Lionsでグランプリを受賞しました。
Spotifyは、動画広告メニューをリリースしたことがあまり認知されておらず、音声広告の受注がメインだったため、広告会社のプランナーをターゲットに実施した施策です。
メディアプランを送るスプレッドシートに、昔のコーディング技術を活用してミュージックビデオをコーディングすることでスプレッドシート上でムービーが動くようにし、動画広告とSpotifyを結びつけました。
Meet Marina Prieto | JCDecaux
https://www.youtube.com/watch?v=4j2UkSs-cSo
こちらもBtoB企業の受賞事例です。Creative B2B Lionsでグランプリを受賞しました。
世界を代表する屋外広告代理店JCDecauxは、地下鉄広告の売上が7%下がっていることに危機感を覚え、世の中にその有効性を伝えるためのコミュニケーションを企画しました。
Instagramでフォロワーが30名程度のMarina Prietoという無名の100歳の女性を起用し、彼女のインスタ投稿写真を掲載して、地下鉄広告を出稿しました。何の広告かまったく記載のないこのクリエイティブにより、Marina Prietoって誰?という話題をSNS上で作ることに成功しました。
数週間後の広告賞、エフィー賞の表彰の場でこの施策のネタが明かされ、地下鉄広告でも話題が作れることを証明しました。
The Everyday Tactician | Xbox
https://www.youtube.com/watch?v=elq83mERXv0
Direct LionsとEntertainment Lions for Gamingでグランプリを受賞しました。
イギリスのサッカー5部リーグのチーム「ブロムリーFC」とXboxの人気サッカー戦略ゲーム「Football Manager」のコラボレーション事例です。
資金不足で優秀な戦略担当を雇えないという5部リーグの課題に対して、ゲームで毎日戦略を考えているプレイヤーなら実際のゲームでの実績がなくても優秀なのではないか、という考えのもと、ゲームプレイヤーからブロムリーFCの戦略担当を募集しました。
その結果、ネイサン・オウォラビさんという方が実際に採用され、ブロムリーFCが132年の歴史で初めてEFL2(4部リーグ)に昇格するという偉業に貢献しました。この様子は、ドキュメンタリーコンテンツとして連載もされました。
また、今年のThe ONE SHOWにおいても最高賞を受賞しています。
ADOPTABLE | PEDIGREE
https://www.youtube.com/watch?v=TZWrW-TTBMs
Outdoor Lionsでグランプリを受賞しました。
コミュニケーション業界ではパーパスを活用したマーケティングが重要視される中、PEDIGREEではパーパスである「家のない犬をなくす」に対して25%の予算しか割り振ってこなかったそうです。これをあえて課題として掲げ、広告予算の100%をパーパスの実現に向けて使った取り組みです。
ペットフードなど同社製品の広告に出演する犬のすべてを、実際の保護犬をAIで再現したビジュアルに差し替え、「今この子を迎え入れられます」という言葉とともに、里親になるのに適した場所に広告を出稿しました。広告は保護犬のデータベースと連動し、里親が決まったらその犬のクリエイティブは別の犬に即座に差し替えできるようにしています。
結果として、商品広告の出稿量は維持しながら、実際に保護犬の受け入れを増やすことに成功しました。
Cars to Work | Renault
https://www.youtube.com/watch?v=BqNMNEWqlvc
Sustainable Development Goals LionsとCreative Commerce Lionsでグランプリを受賞した事例です。
フランスでは、54%の人が車の有無によって職に就けるかどうかを左右されているという課題があり、中でも「Mobility Dessert」と呼ばれる、公共交通機関が乏しいため車を使うしかない地域に住んでいる人は、失業すると、車がないと就職できないにも関わらず、就職できないと車のローンが組めない、というジレンマに陥っています。
この課題に着目し、実際に解決するため、ルノーはMobility Dessertに住む失業中の方に試用期間中は無料で車を提供し、本採用となったらローンの支払いを開始するという新たなプランを提供しました。
カンヌライオンズ2024から見たコミュニケーショントレンド
グランプリ作品を俯瞰してみると、以下のような特徴がありました。1つ目は、ぶっ飛んだユーモアやバイラルを意識した事例への再評価です。
グランプリ受賞作の中でも、「Michael CeraVe」や「The First Edible Mascot」のようなバイラルに振り切った事例が特徴的でした。カンヌライオンズ公式のレポートでも、ユーモアやコメディ要素は大きなトレンドの傾向であると語られています。
「Meet Marina Prieto」や「SPREADBEATS」のように、BtoBのコミュニケーションにおける秀逸なクリエイティブアイデアがグランプリに複数入っていたのも印象的でした。BtoB企業のコミュニケーションもクリエイティブに進化していきそうです。
また、毎年言えるのですが、社会課題を解決するためのコミュニケーションは、問題提起に終わらず実際に役に立つ仕組みを作るところまで実践している事例がとても多く、各企業の取り組みへの本気度を感じています。今回ご紹介した多くの事例がこれに当てはまります。
加えて、Creative Effectiveness LionのグランプリがHEINTZ社の5年間の一貫した取り組みであったことにも注目しました。毎年ユニークな施策を展開しながら、自社ブランドの独自価値を変わらず伝え続けることのマーケティング効果と重要性を改めて感じています。
ビルコムでは、社会課題に着目しながら事業に貢献するコミュニケーション施策など、統合型の広報・PRを行う会社です。PRトレンドを取り入れたコミュニケーションの設計など、お気軽にご相談ください。
書き手:ビルコム株式会社 川島弓奈