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  • 2024年07月18日
  • セミナーレポート

ノンアルコールビール「ハイネケン 0.0」のPR戦略 ~日本上陸時のコミュニケーションとは~ セミナーレポート

2024年6月25日、ハイネケン・ジャパン株式会社 ブランドマネージャー 森下 泰博氏をゲストに迎え、「ノンアルコールビール「ハイネケン 0.0」のPR戦略 ~日本上陸時のコミュニケーションとは~」と題したセミナーを開催いたしました。今回は、当日のセミナーの模様をお届けします。

■ゲスト
ハイネケン・ジャパン株式会社 ブランドマネージャー 森下 泰博氏

地方出版社、広告代理店を経て、ビルコムにて統合型PR戦略に従事。その後デジタルエージェンシーを経て、2016年ハイネケン・キリン株式会社(現ハイネケン・ジャパン株式会社)入社。デジタル&アクティベーションマネージャーとして「ハイネケン」のデジタル・プロモーション業務に従事し、2019年よりブランドマネージャーとして「ハイネケン」のマーケティング全般を担当。福岡県出身。

■モデレーター
ビルコム株式会社 プロデュース局 第2プロデュース部 部長 齋藤 クリフ 悠

食品消費材・化粧品カルチャー等のtoC領域を得意とし、統合型のPR戦略立案・実行支援を担う。前職は株式会社スマイルズにて、化粧品や酒類会社などのPRイベント企画、運営実行までを一気通貫で担当し、食×カルチャー・アートのPR経験を豊富に持つ。

 

齋藤:本日は、ハイネケン・ジャパン株式会社のブランドマネージャーである森下様をゲストに迎え、ノンアルコールビール「ハイネケン 0.0」のPR戦略についてお話を伺います。まずは森下様の簡単なご経歴とハイネケンとハイネケン・ジャパンについてご紹介いただきます。

森下:皆さま、こんにちは。ハイネケン・ジャパンの森下です。本日はよろしくお願いいたします。私は20年以上、マーケティング業界で仕事をしています。現在はハイネケンのブランドマネージャーとして、日本市場のマーケティング全般を担当し、マーケティング戦略の立案、実行を担っています。ハイネケンのグローバルチームや日本のセールスチームなどと日々連携しながら、業務を遂行しています。

ハイネケンは、オランダのアムステルダムに本社を置き、世界70カ国以上で165のビ―ル製造工場を保有しています。ビールをはじめとする348のブランドを保持し、世界190カ国以上でビジネスを展開しています。全世界では9万人以上の社員が働いているグローバル企業です。

ハイネケンでは、2020年に自社の持続的成長を実現するための戦略を立てました。それが、「エバーグリーン」というカンパニー戦略です。企業の価値を中長期的に高めていくための4つの要素をグリーンダイヤモンドという形で表したものになります。①グロース、②資本効率の向上、③サステナビリティと社会的責任、④収益性、このそれぞれ4つの要素をあらゆる活動計画に落とし込みながら、世界規模でビジネスを行っています。

また、我々は「BREW A BETTER WORⅬD」という企業パーパスを掲げ、二酸化炭素排出量など環境面でゼロインパクトの道筋を作る、社会的な側面としてインクルーシブ・フェア・機会平等への道筋を作る、社会的責任の観点から適正飲酒を啓発していくための道筋を作ることを目指しています。「BREW」とは英語で醸造を意味し、より良い世界を醸成していくことが当社の企業パーパスです。

中でも、社会的責任である適正飲酒を啓発していくことが、アルコールを扱う企業として非常に重要であると考えています。毎年世界全体の広告宣伝費の10%以上を適正飲酒啓発のためのキャンペーンに投資しており、2023年には、このメッセージが世界で9億人以上の人たちにリーチしています。

ハイネケン・ジャパンは、2023年4月1日にハイネケングローバルの100%子会社として誕生した、ハイネケングループの中では1番新しい会社です。

齋藤:今ご説明いただいた適正飲酒を啓発していく活動の中から生まれた商品が、「ハイネケン0.0」ということでしょうか。

森下:おっしゃるとおりです。「ハイネケン0.0」という名称で2023年10月に日本で販売を開始しました。他のマーケットではすでに販売されており、日本は昨年ようやく販売に至りました。日本でのローンチに際して機能的便益の訴求点を「味」に置き、 ノンアルコールビールなのに本格的なビールの味わい、というメッセージでコミュニケーションしています。「ハイネケン0.0」は、他社のノンアルコールビールとは作り方が異なり、ビールと同じ製法で醸造して作っています。その中からアルコール成分を取り除く脱アルコール製法を採用することで、本格的でハイネケンと同じようなフルーティーな味わいを実現しています。

「ハイネケン0.0」は、世界的なリサーチ企業Global Data社の調査で2022年の年間販売量世界No.1ノンアルコールビールブランドと認定されました。「ハイネケン0.0」は2017年に本国のオランダから発売を開始しましたが、2024年現在は世界114のマーケットで販売されています。パブ文化が盛んなイギリスでは「ハイネケン0.0」が生ビールのようにタップからサーブされ、人々に楽しまれています。

齋藤:ありがとうございます。日本のノンアルコールビールの場合、運転をする場合や、健康面でアルコールを控えるために仕方なくノンアルコールビールを飲んでいる、というイメージがありますよね。「ハイネケン0.0」は自分から進んで飲みたいノンアルコールビールといった、生活者の意識が変化するコミュニケーションを取っていると感じます。どのような施策をおこなっているのでしょうか?

森下:ありがとうございます。日本はノンアルコールビールの歴史が10年以上あり、市場規模もドイツに次いで世界2位と言われているなど、すでに消費者に浸透している状態でした。そのため、グローバルで実施していた「ノンアルコールビールとは何か、をまず訴求する」という方針とは別の角度からのアプローチが必要でした。

当社がリサーチした結果、日本では飲み会などの場で選べるソフトドリンクのバリエーションが少なく、お酒を飲みたくないが飲まざるを得ないシチュエーションがある、といった声がありました。この結果を踏まえて、美味しいノンアルという機能的価値だけではなく、「飲み会の場でもお酒を飲む人と一緒に乾杯ができる」という情緒的な価値を明確にしてコミュニケーションを展開しました。日本上陸時から「堂々とカンパイできるノンアル」をキーコピーとして広告コミュニケーションを展開しています。

 

「ハイネケン0.0」は、2024年4月から5月末までCMキャンペーンを展開しました。世界で展開しているCMをローカライズして、日本向けにアレンジしています。テレビCM放映の前に、日本の消費者を対象にクリエイティブのテスト調査を行いました。反応もスコアもよかったので、自信を持ってキャンペーンを展開しました。

齋藤:ありがとうございます。最近、日本で開催されたF1でスポンサーシップをされていたことが非常に印象的です。お酒を扱う企業がモータースポーツのスポンサーになることは珍しいと感じるのですが、スポンサーシップをされた経緯などお聞かせいただけますか?

森下:先程お話したように、適正飲酒や飲酒運転撲滅といった啓発活動を「ハイネケン0.0」を中心としたコミュニケーションで行っていくにあたり、世界最高峰のモータースポーツの場で適正飲酒を啓発活動するのが良いのではないか、という意見が出ました。それを受けて2016年からF1のスポンサーシップを世界規模で展開し、現役のF1世界チャンピオンであるマックス・フェルスタッペンを「ハイネケン0.0」のアンバサダーに起用しています。

日本では、2023年9月に開催されたF1日本グランプリの会場で、発売前のティザーとして販売しました。また、2024年4月のF1日本グランプリシーズンには名古屋駅や東京〜名古屋間の新幹線の車両内で大々的にサンプリングを行い、タッチポイントを広げる施策を展開しました。

TVCMや広告で認知を広げ、興味喚起はPRで強化していくというすみ分けをし、PRとしては「ハイネケン0.0」をひとりでも多くの方にお試しいただける体験の機会を創出しています。

齋藤:ありがとうございます。ノンアルコール市場が飽和状態の日本では、広告的なコミュニケーションだけで戦っていくのは難しいですよね。ハイネケンは、他社でも言える価値ではなく、独自の価値をうまく発信しているなと感じています。最近発売されている木村元さんが執筆されている書籍「ブランド・パワー」の中でも同じような考え方がフレームワークとして紹介されています。

木村元さんの提唱するフレームワークによると、ブランドコミュニケーションを消費者のニーズ、自社の提供できる価値、競合が提供できる価値の3つに分けたとき、自社も競合も提供できる価値というのはPOP(Point of Parity:最低限必要な要素)であり、自社も競合も満たすことができる、消費者にとって最低限の価値、ということです。一方、自社が独自で提供できる価値はPOD(Point of Difference:差別化できる要素)であり、消費者が求めていて、かつ自社が提供できる価値だといいます。

(※引用元:木村元 著「ブランド・パワー」)

「ハイネケン0.0」の施策に当てはめると、下記のように分類されると考えられますがいかがでしょうか?

 

 

森下:おっしゃるとおりです。いかに消費者の想起集合に入り、ノンアルコールビールの中から選ばれる理由を明確に作っていくかという点は、まさにこの「ブランド・パワー」の考え方と同様だと思います。

齋藤:一般的に商品を開発する際、現在のニーズを把握し、その競合他社の情報を調べ、自分たちの差別化ポイントを決めて商品が作られます。例えば、ノンアルコールビール市場でいうと、「おいしさ」や「機能性」を各社が商品価値として訴求しています。しかし、商品を開発する段階で「自社独自の価値」だと思っていたものが、いざ発売してみると消費者にとってはそれが「あたりまえの価値」であり差別化できていない、ということもあります。

マーケティングやPR担当者の方は、顕在ニーズだけでなく潜在ニーズについても今一度整理し直すとともに、今のターゲットや今後拡大したいターゲットのニーズを調べて把握し、他社と違いがある価値=PODを特定していくことが非常に重要です。

森下:当社のコミュニケーションにおいてもPODの特定は非常に有効だったと思います。ハイネケンは20代から30代半ばの若年層から人気が高いことが強みです。若年層を中心にブランド体験を強化するために、ビールを楽しく飲んでいただける新しい体験機会の提供、そしてノンアルコールの新しいカルチャーを作っていくことがさらなる情緒的な価値、すなわちPODの訴求へとつながると考えています。

当社では、F1のスポンサーシップをする前から飲酒運転撲滅の啓発活動を行っていますが、その手段のひとつがeスポーツへの展開です。日本において「ハイネケン 0.0」が若年層に向けた人気商品として存在し続けられるためには若者に人気のeスポーツがタッチポイントになるのではないかと考えました。ファッションやカルチャーの要素を取り入れるべく、ファッションセレクトショップのBEAMSさんとコラボレーションし、2024年4月にハイネケン初のeスポーツ大会「Japanese Player 0.0 Final」を開催しました。多岐にわたるeスポーツのジャンルの中から、F1のスポンサーシップをしていることもありeモータースポーツを選びました。ファッションの要素を組み込むことで、eスポーツを知らない方にもおしゃれ、楽しそう、といったイメージを持っていただき、啓蒙活動の間口が広がるようなPRの施策を行っています。

今後も「ハイネケン0.0」を通じて、日本の歴史の長いノンアルコール市場で培われた「仕方なくノンアルコールを飲む」といった価値観を、少しでもポジティブな選択に変えられるよう、タッチポイントを多く作るコミュニケーション活動を行っていきたいです。そして、ハイネケンらしさを持ちながら、F1やeスポーツを通じて適正飲酒や飲酒運転撲滅の啓発活動を行うと同時に、かっこよくクールにノンアルコールビールを楽しめることを訴求していきたいと考えています。

 

ビルコムは、企業独自の価値に着目しながら、事業に貢献するコミュニケーション施策を行う会社です。PRトレンドを取り入れたコミュニケーションの設計など、お気軽にご相談ください。

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書き手:ビルコム株式会社 川島弓奈

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