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- 2024年09月10日
- PRノウハウ
事業に貢献するためのブランディングとは?「ブランド・パワー」の著者、木村元氏から学ぶ、ブランディングの極意
2024年6月28日、当社にて、「ブランド・パワー」の著者、木村元氏をゲストに迎え、当社代表の太田と対談を行いました。当日の対談の模様をお届けします。
■ゲスト
株式会社Brandism 代表取締役 木村 元氏
2009年神戸大学卒業後、ユニリーバ・ジャパン株式会社に入社。ラックスやダヴなど、ユニリーバの国内外のブランドマネージャーを担当し、2013年にはラックスの国内シャンプー市場におけるシェアNo.1奪還に貢献。ロンドン本社にて、ダヴを担当し、グローバル全体のナチュラル・オーガニックブランド戦略を統括。ユニリーバ・ジャパンにおけるスキンクレンジングカテゴリーならびにダヴブランドを統括。グローバルユニリーバ傘下のプレミアムのスキンケアを扱うラフラ・ジャパン株式会社の代表取締役に就任し、M&A後のV時回復及びPMIに従事。2021年より株式会社Brandismを創業し、toBからtoCまで、幅広くマーケティングのサポートを行なっている。著書「ブランド・パワー」を2023年12月に出版。
■モデレーター
ビルコム株式会社 代表取締役兼CEO 太田 滋
経営管理博士。青山学院大学大学院国際マネジメント研究科国際マネジメントサイエンス専攻一貫制博士課程修了。Stanford-NUS Executive Program in International Management修了。2003年にビルコム株式会社を創業。市場創造と評判形成に貢献する次世代PRを掲げ、マスメディア、Web、SNSを含めた統合的なコミュニケーション戦略を手掛ける。2009年に口コミマーケティングの健全なる育成・啓発を支援するWOMマーケティング協議会を立ち上げ、初代理事長を務める。2019年、青山学院大学国際マネジメント学術フロンティア・センター特別研究員。2020年〜21年には、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科にて寄付講座を実施。
太田:本日はよろしくお願いします。早速ですが、木村さんが在籍されていたユニリーバやラフラでの業務内容、ミッションについてお話いただけますでしょうか。
木村:皆さまこんにちは。株式会社Brandismの木村です。本日はよろしくお願いします。早速ですが、私が現職に至るまでに在籍していたユニリーバやラフラでの業務やミッションについてお話させていただきます。私は2009年、新卒でユニリーバに入社しました。ブランドマネージャーの下でアシスタントとして、シャンプーのブランドであるラックスを担当していました。当時は、P&G社のパンテーンが日本で1番売れているシャンプーで、ラックスはナンバーツーでした。2013年にラックスが国内シェアナンバーワンになり、そこから約4年半から5年ほどナンバーワンを維持し続けていた期間、ブランドマネージャーとしてラックスブランド全体の統括を行いました。
ブランドマネージャーの役割は、製品開発やものづくりのコンセプトを計画するだけでなく、売上を作るためにどういう項目にいくら投資するかなど、ファイナンスの側面もあります。また、組織開発にも注力し、どうすればラックスの売上が上がるかを幅広く包括的に見ることに従事していました。
その後、私が2019年から代表を務めたラフラは、同年にユニリーバに買収された会社です。代表取締役就任後、まずは社内文化統一や組織統合など、組織の在り方を仕組み化しました。ラフラは社員が50名から60名程度の規模の会社ですが、ユニリーバは日本だけで800名程度の規模でした。文化や考え方など違って当たり前なのですが、ある程度統一した意識を持って業務を遂行する必要があると感じました。全体の売上を上げるためにまず取り組んだのが、PRのリテナー活動だったんです。ユニリーバではPRを活用する文化が当たり前にありましたが、ラフラはPRに対する予算投下の考えが薄く、認知を取ることに苦戦していました。そのため、コンセプトは尖っているのに、メディアやSNS、インフルエンサーに全く取り上げられていない状況だったのです。こうした状況を打破するためには、マーケティング領域でのテコ入れが必要だと思いましたし、PRに注力することで売上が上がるだろうという自信もありました。コロナ直後は大変な時期もありましたが、PRの力で売上をV字回復することができたと実感しています。
太田:ありがとうございます。素晴らしい成果ですね。 ユニリーバはPRに対するリテラシーがある程度高いというお話がありましたが、社会の潮流や世の中のニーズを捉えながら施策を打っていったわけですね。
木村:おっしゃる通りです。社会の潮流や世の中のニーズを捉えたPR手法というのは、私が入社する以前からある文化だと感じています。
ダヴが日本に上陸した際に放映されていたCMを本日お持ちしました。私自身小学生ぐらいの時に実際に見ていたもので、とても印象に残っているものです。私が制作に携わったCMではないのですが、とても良い事例だと思いますのでご紹介します。
https://youtu.be/J-qOx3NSijI?si=JzeIhkuIh1Emjfsu
一般の方がダヴを使って洗顔し、その使用感など感想を話してもらうという、テスティモニアルの手法を用いたCMになっています。台本もなく、消費者の生の声をそのまま使用することで、ダヴの良さがシンプルでわかりやすく世の中に伝わっています。このCM放映後は、洗顔料で国内シェアナンバーワンになったそうです。
次に、広尾学園の学生を撮影したCMをご紹介します。こちらは、私も制作に携わりましたが、先ほどのCM同様台本はなく、学生の皆さまには学生証の写真を撮り直すことだけが伝えられていました。
https://x.com/Dove_JP/status/989482091921342464
ダヴは、グローバルで「Real beauty by Real event」という大きなコンセプトを掲げており、本当の美しさはリアルなありのままの姿である、という考えを持っています。そのため、動画も一切レタッチしていません。このコンセプトを掲げてから、広告でタレントの起用もしていないんです。日本において広告は、芸能人が起用されることが多いですし、容姿が綺麗な方に対する憧れがあり、一般的に美しさのステレオタイプとされている方を起用して訴求することに嫌悪感をあまり持っていません。一方、米国を例に挙げると、リアルであることが正しいといった社会的な風潮があるように感じます。広告でふくよかな女性を起用したり、芸能人ではない一般女性の方を起用することが当たり前のように受け入れられていますが、日本で同じことをそのまま実行するとあまりうまくはいきません。当時の私は、このコンセプトを掲げているグローバルの考え方を理解するまでに時間がかかりました。
日本の場合はどういう切り口が国民性と合うのか、模索していた際に目を向けたのが、女子学生たちです。先程のCMの冒頭にあったように、日本の10代の女性のうち、自分の容姿に自信をもっている人はたった7%で、これは世界でもっとも低い数値です。これを聞いた時に私自身大きなショックを受け、自己肯定感を高めることをもっと若い時から伝えて広げていく必要性を実感しました。CMでは、クラスメイトの目に映る自分の姿を知り、自分の美しさに気づいていく様子を撮影していますが、自分の美しさや良さを知ったあとの撮影では、学生さんたちの表情がとても明るくなりました。
ユニリーバでは、自己肯定感を高め、ありのままの自分でいい、ということを知るためのワークショップを学校の授業内で行う活動も実施しています。こうしたブランドの取り組みを、ユニリーバではSAYとDOと呼んでいます。CMのように動画を作って多くの方へ伝えて啓蒙活動していくことをSAY、伝えたことをアクションしていくことをDOとし、DOの部分がとても重要であると考えています。
太田:ありがとうございます。1つ目のCMはテスティモニアルを使い、機能的価値を証言してもらうような手法でCMが作られているんですね。2つ目は実証実験のような形を用いて、PRの観点で作られていると感じました。プロダクトの機能を伝える内容というより、ブランドのパーパスや社会性、リアルビューティーのコンセプトに立ち返っているような内容でしたが、何か意図があったのでしょうか?
木村:ユニリーバは、全てのブランドで目的や社会的意義などのパーパスを掲げています。もちろん多くの方に商品を使っていただいて、保湿力や香りといった機能価値を知ってもらうことが重要なのですが、商品の訴求と並行して、パーパスの訴求にも一定の予算を割こうという考え方が根底にあります。先程のCMのように、企業としての想いや理念、メッセージを発信することを第一に考えて行われた施策になります。
太田:ユニリーバでのご経験から、現在はブランドを支援する立場として会社を創られていますが、木村さんご自身が感じるブランディングの重要性や、ブランディングに軸足を置かれている理由を教えていただけますか。
木村:コロナ以降、DtoCブランドが急激に成長するなど、瞬間風速的に伸びているブランドはあります。しかし、事業会社で14年間経験してきた中で、瞬間的な立ち上がりで築いたブランドが、その後も継続しているところを見たことがなく、ブランディングやPRなど地道な活動の積み重ねによって売上が伸びていった、という実感があります。ブランディングは、ブランド価値を高めることで売上と利益を上げる手段に最適であると考えています。そのため、ブランディングを最重要に考えています。
太田:ありがとうございます。木村さんが書かれた書籍「ブランド・パワー」を拝読しました。ブランディングに関する書籍が沢山ある中で、「ブランド・パワー」を書こうと思った背景などありますか?
木村:日本の事業会社が長期的なマーケティングを行う上で、ビジネスを成功させるためにはブランディングが必要不可欠だと思っています。全ての企業が同じマーケティング手法を使うとシェア争いが起こりますが、こうしたシェア争いが起こることでその市場は活性化されますし、国内企業がグローバルなブランドとも戦えるようになるのではないかと考えています。日本経済が元気になるような、市場を活性化させるためのマーケティング手法や実践法を世の中に伝えたいと思ったのが、「ブランド・パワー」を書いたきっかけです。
太田:ブランディングが最も事業貢献するアプローチということですよね。売上を上げようとすると、単価のアップや頻度、契約の更新率などを見ることが多いと思うのですが、この点はどのようにお考えですか?
木村:一般的にブランドと聞くと、高価格な製品や価格を上げるための付加価値と考えられがちですが、ブランドというのは自社のターゲットである顧客に対して、認知の量と質を取っていくことだと考えています。競合ブランドとは差別化された自社の価値を定義して提供することが、売上を上げる手段であると思っています。
価格を下げ、瞬間的に販売数を増やせば売上は上がりますが、これでは長持ちしません。売れているその瞬間はいいですが、翌年も同じことをしなければならなくなり、繰り返すことでどんどんブランドが衰退していきます。
ユニリーバに在籍していた時、グローバルの方たちが、ロゴの位置はどうするかやロゴの色はどの赤色にするかなどを話し合っている姿を見て、理系の私には売上とロゴの配色が一体どうつながっているんだろう、という疑問がありました。抽象的なものをどうにか数字に結び付けられないかと一生懸命考えはじめたのが、ブランド・パワー執筆のスタートでした。
木村 元 著:ブランド・パワー ブランド力を数値化する「マーケティングの新指標」(MarkeZine BOOKS)
太田:ブランディングにおけるPRの役割や期待についてはどのようにお考えですか?
木村:PRの効果は大きく、特に近年は企業におけるPRの重要性が高まっているように感じます。テレビCMや店頭のパッケージなど、PRの手法はさまざまなものがありますが、昨今では第三者発信でリアルな声を届けることが、購買やブランド価値向上につながると思っています。
ブランディングにもPRにも共通していることとして、持久力的な側面と瞬発力的な側面の両方が必要である、という点があります。継続的にブランドや事業を伸ばしていくPR活動も重要ですが、局所的にキーワードを訴求し、世論を巻き込むことや流行を作っていくことも、売上を上げるために必要な手法だと考えています。持久力的な側面と瞬発力的な側面両方を取り入れて、当たり前のことを当たり前のように継続して行うことで、市場で勝ち残っていくのではないでしょうか。これからのブランディングにおいて、PRは確実にプレゼンスが上がっていく領域だと感じています。
太田:木村さんのお話を伺い、PRにおいても持久力的な側面と瞬発力的な側面が必要であることを改めて感じました。木村さん、本日は貴重なお話をありがとうございました。
2024年9月27日には、木村様をゲストにお招きしたセミナー~ ユニリーバの元マーケターと語る ~「ブランド力の可視化」マーケター必見の新ルールを開催します。現代におけるブランディングの重要性について伺うとともに、ブランド力を数値化しコミュニケーション戦略に反映することで事業貢献を実現する手法についてご紹介します。ブランディングを強化し、成長を実現したいマーケターやPR担当者の方はぜひご参加ください。
ビルコムは、企業の独自価値に着目しながら、事業に貢献するコミュニケーション施策を行う会社です。ブランディングにおけるPRの設計など、お気軽にご相談ください。
書き手:ビルコム株式会社 川島弓奈