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- 2025年11月11日
- セミナーレポート
ファンとの共創で生み出す第一想起 ~語りたくなるブランド「クリーンデンタル」と「ヤッホーブルーイング」のPR秘話~
2025年10月2日、当社が主催するPRカンファレンス「BILCOM DAY 2025 - PRで創るブランドの第一想起」を開催しました。今回は、BILCOM DAY 2025内で行ったトークセッションファンとの共創で生み出す第一想起~語りたくなるブランド「クリーンデンタル」と「ヤッホーブルーイング」のPR秘話~のセミナーレポートをお届けします。
■ゲスト
第一三共ヘルスケア株式会社 クリーンデンタル ブランドマネジャー
松田 一成 氏
2014年入社。3年間の製剤研究を経て、薬理・毒性研究に従事。2020年より、40周年を迎えたロングセラー歯みがきブランド「クリーンデンタル」のブランドマネージャーを務める。2025年からは「語ろう!ハミガキプロジェクト」を推進。
株式会社ヤッホーブルーイング ヤッホー広め隊 広報ユニット ユニットディレクター
渡部 翔一 氏
2017年入社。プロモーションユニットでPR起点の動画プロモーション「チーム“ビールディング」やSNSを活用した製品プロモーションを担当。2019年から広報ユニットに異動。2022年ユニットディレクターに就任。
■モデレーター
ビルコム株式会社 プロデュース局 第2プロデュース部 部長
齋藤 クリフ 悠
食品消費材・化粧品カルチャー等のtoC領域を得意とし、統合型のPR戦略立案・実行支援を担う。前職は株式会社スマイルズにて、化粧品や酒類会社などのPRイベント企画、運営実行までを一気通貫で担当し、食×カルチャー・アートのPR経験を豊富に持つ。
齋藤:第2部のトークセッションでは、「ファンとの共創で生み出す第一想起」と題し、クリーンデンタルのブランドマネジャー松田様と、ヤッホーブルーイングの広報ユニットディレクター渡部様をお迎えします。歯磨き粉とビールという全く違う商材で、ファンとどのようにコミュニケーションを取りPRをしているのか。早速お話を伺っていきましょう。
松田:第一三共ヘルスケアの松田と申します。私は「クリーンデンタル」という歯周病予防の歯みがきのブランドマネジャーをしています。クリーンデンタルは1985年に発売され、今年で40周年を迎える製品ですが、かねてより歯や歯ぐきの悩みは日常会話で話題にしづらいといった課題がありました。調査では、歯周病や口臭について話したことがある人は2割程度にとどまっています。こうした課題を解決するために、もっと気軽に歯や歯ぐきについて語れるようにしようと「語ろう!ハミガキプロジェクト」という企画を2025年から始めています。
渡部:ヤッホーブルーイングの渡部です。弊社は「よなよなエール」などのクラフトビールを製造・販売しています。我々のミッションは「ビールに味を!人生に幸せを!」です。画一的な味しかなかったビール市場にバラエティを提供し、ささやかな幸せを届けたいという想いで活動しています。製品開発では「100人に1人に刺さるか」を基準に、差別化された個性的な製品作りを心がけています。また、ファンイベントにも力を入れており、最大で5,000人規模の単独イベントを開催した経験もあります。
齋藤:両ブランドとも熱狂的なファンがいらっしゃいますが、その存在に気づいたきっかけは何だったのでしょうか?
松田:私は元々研究職だったのですが、当時からお客様相談室に届く声の熱量がすごかったんです。クリーンデンタルの味に対して、「初めてビールを飲んだ時を思い出した」とか「クセが強い、でもこれがいい」とか。中には1時間近く電話で想いを語ってくださる方もいて、ブランドの奥底にマグマのような熱量があると感じました。

齋藤:特徴的なクリーンデンタルの味を、どうプロモーションに繋げたのですか?
松田:CMを制作する際に、まさにその「味」をフックにしました。俳優の松本若菜さんに初めて使っていただくシーンで、心の声として「やば、無理かも」というセリフを入れたんです。社内では、言い過ぎでは?といった議論もありましたが、ファンの皆さんが感じているリアルな第一印象を表現したかった。ただ、既存のファンの方を傷つけないよう、最終的には「すごい味」という言葉に落ち着きました。これが結果的に、新規顧客の興味を惹きつけ、シェア拡大に繋がりました。

齋藤:リアルな印象を伝えたことで新たなファンを獲得できたのですね。ヤッホーブルーイングさんも、ファンとの出会いは印象的だったと伺っています。
渡部:90年代の地ビールブームが去った後、8年連続赤字という時代がありました。もうダメかと思った時、最後の手段で始めたのがECサイトだったんです。すると、全国にいた「もう一度よなよなエールが飲みたい」というお客様が、ECで買ってくださった。「売ってくれてありがとう」という直接的な声に触れたことで、「私たちはこの方たちのためにビールをつくっているんだ」と、社員みんなの目が覚めました。そこで、インターネットでつながることができたお客様に実際にお話をしてみたい!ということで始めたのが、たった40人規模の小さなファンイベントだったんです。それが全ての始まりですね。

齋藤:ファンの声から、どのように具体的なPR施策を生み出しているのでしょうか?
松田:私たちは「実感」をキーワードに、クリーンデンタルの味を体験してもらう場を考えました。調査で「昼に歯を磨きたいけど、場所がなくてできない」というインサイトを見つけ、「街角ハミガキスポット」という社会実験的なイベントを実施したんです。

齋藤:街角での歯磨きはすごい光景ですね(笑)。
松田:社内でも「本当に磨く人いるの?」と半信半疑でしたが、蓋を開けてみると歯みがきのために40分の行列ができていました。歯みがきというプライベートな行為をオープンな場で行うことで、「語ろう!」というコンセプトを体現できたと思います。ちなみに、オンラインで一斉に歯みがきをするイベントもやったんですよ。これはヤッホーさんのリモート乾杯からヒントを得ました。
齋藤:素晴らしいですね。ヤッホーブルーイングさんは、ファンを巻き込む企画がとても上手なイメージがありますが、いかがでしょう?
渡部:常に「意外性」は意識しています。例えば、あるファンの方の「野球場で(アルコール度数0.7%の)ビールを飲む夢が叶った」というXの投稿を見て、「お酒に強くない人だけを集めた飲み会イベント“ほど酔い宴”」を企画しました。お酒が飲めない方々が「人生で初めてビールの飲み比べができた」と感動してくれて。この企画はメディアにも注目され、他社も巻き込んだ大きなイベントに発展しました。

齋藤:「飲みづらいグラス」も衝撃的でした。
渡部:「飲みづらいグラス」は逆転の発想ですね。ビールメーカーがあえてゆっくりしか飲めないグラスを作ることで、適正飲酒というメッセージを面白く伝えようと。最初は手作りで10個限定だったんですが、2,700件以上の応募が殺到して、今では13,000円で販売するほどの人気商品になりました。ただ面白いだけじゃなく、その裏にあるストーリーやメッセージをファンの方に感じ取ってもらえたのが嬉しかったですね。

齋藤:最後に、お二人からPRパーソンへのメッセージをお願いします。
松田:歯みがきのような日常のルーティンも、見方を変えれば一つの「体験価値」になります。そのヒントは、熱心なファンの声の中に眠っています。固定観念を捨てて、一度ファンと真摯に向き合ってみることが、新しい道を開くきっかけになると思います。
渡部:我々が大切にしているのは「意外性」です。一見すると逆説的な企画でも、その裏にしっかりとしたメッセージがあれば、人々の心に刺さり、ブランドのファンを増やすことに繋がります。常識を疑い、ファンと一緒に物語を共創していくことが、これからのPRには不可欠ではないでしょうか。
齋藤:両社の事例から、企業が一方的にメッセージを発信する時代が終わり、ファンと共にブランドを育てていく「共創の時代」が到来していることを感じました。本日は貴重なお話をありがとうございました。



