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  • 2019年09月03日
  • PRノウハウ

新市場を創るPR戦略とは ― マンダム「GATSBY」の“視線耐性”プロジェクトを紐解く

「顧客層を広げたい」と悩むブランドのマーケティング・PR担当者は少なくありません。顧客層を開拓するためには、ブランドや商品の新たな提供価値を生活者が共感しやすい形で見い出し伝えていくことにより、新たな市場を創出していく必要があります。

今回は、「視線耐性」というワードを用いた戦略でメディア、SNSでも話題を作ったマンダム「GATSBY」のPRプロジェクトに注目。戦略設計、メディア、クリエイティブの担当メンバーが様々な立場から議論することで、新市場創造の具体的な手法や裏側を伝えます。

 

      

 

プロジェクトメンバー

 (右より)

・コンサルタント:倉地 大輔

 座談会・調査・専門家などによるファクト形成および、プロジェクトマネジメントを担当

・プランナー、クリエイティブディレクター:茅野 祐子

 プロジェクト全体のプランニングおよび「全国統一視線耐性テスト」のクリエイティブディレクションを担当

・シニアメディアプランナー:松尾 英樹

 PR戦略・メッセージ設計およびメディアリレーションズを担当

 

若年男性が抱える社会課題から「視線耐性」というキーワードを選定

― 今回のプロジェクトは、どのような経緯で始まったんでしょうか?

 

茅野:マンダム社から「新発売されるスキンケアシリーズのPRを通して、若年男性にスキンケアの必要性を伝えたい」というご相談をいただいたのが、プロジェクトの始まりです。

そのご依頼の背景には、GATSBYがターゲットとしている若年男性のスキンケア実施率が伸び悩んでいる、という課題がありました。「若年男性もスキンケアが必要なんだ」という市場啓蒙をしていきたい、というのが狙いです。

 


マンダム「GATSBY」スキンケアシリーズ

 

 ― 今回のプロジェクトは「視線耐性」というワードが軸となっていますが、そのワードに行き着くまでに、どのようなロジックでコミュニケーションプランを策定していきましたか?

 

茅野:マンダム社では、肌の悩みを持っている人は、すでにスキンケアを行っているだろう、と想定していました。ですので、スキンケアを今すぐ行わなくてもよい人や、肌にそこまで悩みを感じていない人に、どうしたら日常的に商品を使ってもらえるのか、という視点から考えました。

ただ、悩みが顕在化していない層がターゲットなので、「スキンケアしましょう!」「肌をきれいにしましょう!」というストレートなメッセージでは、絶対に興味喚起されないし、新しい習慣を定着させることは難しいと思っていました。

若年男性や社会が興味関心を持ちそうなテーマを考える過程で、グループインタビューやデブスインタビューなど、若年男性に様々な形でヒアリングを行いました。そこでわかったのは、「周囲から嫌われたくない」「印象を良くしたい」というインサイトを持つ方が非常に多いということでした。

 

 

倉地:あとは、マンダム社が独自に行っている皮膚科学の研究データも参考にさせていただきました。肌にアラがない人は「清潔感がある」など、ポジティブな印象を持たれやすいというデータがあったので、そのデータをどう活かすか、若年男性の興味関心事にどう近づけるかを考えた時に、社会的背景にある若者のデジタルシフトに着目しました。

 

一般パネル評価による顔印象項目スコアと肌状態項目スコアの相関係数

(株式会社マンダム プレスリリースより)

 

 茅野:若者のコミュニケーションがデジタルに移行していることにより、彼らは直接対面した時の対人印象やコミュニケーションに不安を持っているのではないか、という仮説を立てたんです。そこから「視線耐性」というワードに辿り着きました。

 

―「視線耐性」は以前からあったワードなんでしょうか?

 

茅野:そうです。TwitterなどのSNSでソーシャルリスニングをしている際に、「視線耐性」というワードに出会いました。ただ、当時は一般的なワードではなかったですし、バズっていたわけでもありませんでした。数件、視線耐性のなさを嘆くツイートがあるくらいだったんですよね。

でも、既存の用語でもないのに、ターゲット層に近しい複数の方が使っている。ということは、このワードを活用してストレートメッセージではないかたちで、ターゲットに新習慣の定着を促すことができるのではないかと考えました。

 

ターゲットの気づきから自分ゴト化までのシナリオを策定

― プロジェクトのキーワードが決まった後、いよいよ具体的な施策を設計していったかと思います。戦略設計において意識したポイントを教えていただけますか?

 

茅野:パーセプションシナリオを作成して、基本的にはその流れで生活者の態度変容を促すにはどうすれば良いのか、という観点から考えました。

 

プロジェクトで設計したパーセプションシナリオ

 

 茅野:そのシナリオを基にコミュニケーションを設計したのですが、ファクトをいかに作るか、というところに重点を置いていましたね。PRはファクトベースが基本ですので、アンケート調査や座談会、KOLの起用など、色々なかたちでファクトを作り上げました。

 

倉地:初期の段階ではメディアプロモートに関しても、フェーズごとに重点媒体を選定していましたよね。

 

茅野:そうですね。そこはメディア担当と連携して、かなり詳細に詰めていきました。

 

 

 松尾:メディア担当チームでは、初期戦略の段階で、テレビ、Web、新聞、雑誌とまんべんなくメディア・オーディットを行ったんです。情報への信頼度と親和性を確かめたうえで、情報提供の優先度を決めていきました。

当時、視線耐性はまだ世の中ごと化されていなかったので、はじめからテレビや新聞では報道されないと思っていました。なので、まずはテレビや新聞の記者が情報収集で使用するWebに情報を発信して、話題の拡散を図ろうと考えました。そして、その話題の信頼性を担保してくれる媒体として、新聞へプロモート。その後、情報拡散を最大化するためにテレビや雑誌を狙っていく、というプロセスを設計しました。

 

PRファクトの信頼性を高める専門家との協力体制を構築

― ファクト制作に重点を置いたとのことですが、具体的にどんな施策を行ったんですか?

 

倉地:いくつかあるんですが、1つは、視線耐性を語っていただく専門家として早稲田大学 ・森川友義教授にご協力いただき、大学生との座談会や、アイトラッキングの実験を行いました。

 

早稲田大学・森川友義教授

 

 ― 森川教授を起用されたのは、どういう理由からなんでしょうか?

 

茅野:学生のインサイトがわかることと、視線と対人関係の関係性について語れる方を探していたんです。森川教授は、恋愛学の講義を持っていらっしゃるんですが、それが学生にとても人気で。同テーマで書籍も出版されているので「視線耐性とモテの関係」などのお話も可能なのではないか、と考えご依頼した、という経緯です。視線耐性の定義自体も、森川教授と共創しました。

 

― 専門家の方にご協力いただくことで、メディアの情報への信頼感も増すんでしょうか?

 

松尾:視線耐性は、これまであまりメジャーではなかった言葉です。なので、半分は面白い、もう半分は「本当にそうなの?」という疑問をメディアから持たれる可能性がありました。そういう中で、「早稲田大学の森川教授が視線耐性について語れる」という要素があることで、情報の信頼度を高めることができたと思っています。

 

倉地:森川教授から視線耐性についてのレクチャーや、視線耐性を高めるための方法に関する議論を行って、その生の声を拾いました。目的は「視線耐性に関する定性的なデータの取得」です。実施してみると、若年層の視線耐性はやはり低いことがわかりました。座談会では若年層女性の意見もお聞きしたのですが、「ネットのプロフィール画像の加工しすぎはちょっと…」「肌のきれいさは清潔感の基本ポイント」など、そこでは男性の肌に関する彼女たちの意見がかなり収集できましたね。

 

松尾:初期はメディアも「視線耐性って何?」という反応だったので、座談会で拾った生の声やデータ、撮影した写真はプロモートする際にもかなり活用しました。

 

情報拡散の最大化を図るためタイアップ広告を活用

倉地:初期は情報拡散を加速させるためにタイアップ広告を打つことにしていたので、PRの素材として活用できる定性的なデータを取得するとともに、記者の方に来ていただいて、座談会の様子を記事化しました。

 

大学生が参加して行われた座談会の様子

 

茅野:このタイアップが予想以上に効果があったんですよ。もともとは倉地が言うように、Webへの情報発信の補完として考えていて、タイアップ記事の1つでは、視線耐性に関してわたしたちが伝えたいことの全てを詰め込みました。すると、その記事を見たメディアからの問い合わせが複数あったんです。

 

倉地:テレビ番組からのお問い合わせもいただきましたが、きっかけはこのタイアップ記事でしたもんね。そのときは既に他媒体でも結構話題になっていましたけど、間違いなくタイアップも話題化には貢献していたと思います。

 

茅野:そうですね。視線耐性とは何なのか、若者は何に困っているのか、ということがわかる、いわば情報のプラットフォームになったので非常に効果的でした。「PR=パブリシティの獲得」と思われがちですが、情報を戦略的に拡散していくには広告もうまく活用することが必要だと改めてわかる施策だったと思います。

 

― 座談会で話題化への足がかりがかなり作れたということですね。

 

茅野:はい。タイアップやパブリシティを通して、ターゲットに「確かに自分もそうかも…」という気づきを与えることは上手くいっていたと思います。

 

松尾:プロジェクトの後半では、メディアの視線耐性という言葉への認知度はかなり高まっていました。なので、前半の視線耐性の説明から企画提案していたときとは違い、後半では「どんなときに視線耐性が必要なのか?」というシーンの話から始められるなど、一歩進んだ会話ができていたと思います。結果、AERAさんでは第一特集で視線耐性に関する話題を取り上げていただいています。

 

<参考記事>

AERA 2019年2月4日号 「見るのも見られるのもイヤ」

https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=20704

 

 茅野:Webから雑誌、テレビへと露出が拡大していってましたが、あれは何がきっかけだったと感じますか?

 

松尾:僕は、リリースが結構効いていたと思います。ファクトデータが記載されたリリースを、1ヶ月に2-3本ほど送っていたんですよ。Web媒体の方は、データが入ったリリースに比較的目を通してくださるんです。だから、「視線耐性のリリース、この間もあったよね。今日も届いてたけどさ」みたいなことを言われたりして(笑)。

それだけ情報をお届けしていたので、媒体の方がネットで視線耐性を検索してくれると。すると、茅野が“情報のプラットフォーム”と言っていたタイアップ記事に辿り着く、という流れでした。

 

 

 松尾:でも「ただ数を打てばいい」ということは全然なくて、有用なデータを記載したリリースだから効いたんです。僕は前職でメディア側にいたんですけど、リリースって1日に200本くらい届くんですよ。だから、ほとんどのリリースは読まれない。今回のプロジェクトでは、記者の興味をひくタイトルにしていたし、載っている情報も有用なものだった、というのがポイントです。

 

 自分ゴト化を促すフェーズにこそファクトが求められる

― パブリシティを通して「視線耐性」への認識がかなり広まったと思いますが、そこから一歩進んだ自分ゴト化を促すために、どのような施策を行いましたか?

 

茅野:自分ゴト化を促進するコンテンツとしては、自分の視線耐性度が計測できる「全国統一視線耐性TEST」というサイトを最終的にリリースすることにしていました。でも、そのサイトに紐づくファクトなしにリリースするだけでは自分ゴト化しません。「肌の状態が見られている」「肌がキレイだと清潔感がある」「スキンケアしなきゃ!」と気づいてもらうために、ただ診断コンテンツをリリースするだけでなく、実験のデータをファクトとして活用しました。

 

  

 

倉地:実験では、若年男性100名に対して、男性が初対面の人― 特に女性と話すときに、どのような視線の動きをするのかを計測しました。実際にどの程度目を合わせて話しているのか、目を合わせられる人・合わせられない人で会話中の動きに違いはあるのかを見ていったんです。初対面の男性と会話をする際に、女性は男性のどこを見ているのかをデータとして残すため、女性目線のトラッキングデータも収集しました。

 

茅野:実験の結果はデジタルコンテンツにも反映させているので、客観的なエビデンスに基づくコンテンツに仕上がっています。

 

実験から取得したデータをデジタルコンテンツに反映。

画像は女性目線のトラッキングデータをファクトとして活用している。

 

 松尾:様々な施策を行って話題化を図った結果、メディア露出のリーチ数では目標の5倍ほどの数字を獲得できました。マンダム社からも「視線耐性」というワードは資産になったし、PRを通して社会ゴト化まで持っていくことができたのではないか、という評価もいただけています。

 

<参考記事>

Abema TIMES 2018/11/24 他者の視線を受け止めるのが苦手…若者の間に広がる「視線耐性」の低下

https://abematimes.com/posts/5294922 

 

日本経済新聞 2018/12/11付 「視線耐性」どうつける? 相手の目を見て話せない…

https://www.nikkei.com/article/DGKKZO38775910R11C18A2EAC000/

 

 

 ― 最後に、新しい市場を創造するためのポイントを教えてください。

 

茅野:「時流を踏まえた、新たな提供価値を定義する」ことが重要だと思います。時流をおさえていることがポイントで、今回も、ものすごく尖った企画かというとそんなことはないと思うんです。だけど、若者のスマホ依存などの社会課題が背景にあることで、幅広い生活者、メディアの興味をひくことができました。

そして、いかに信頼度のあるファクトをつくれるかも大切です。いくら新しい価値を言葉で定義しても、その裏付けとなるデータや生の声や事象がないと、信頼性の問題から話題化には繋がりにくいです。

ファクトや時流、社会課題を踏まえたうえで、ブランドや商品はその課題をどう解決できるのかを考えていくことが必要だと考えています。

 


 

新市場を創造するには、ブランドや商品が打ち出してきた切り口を変え、生活者に新たな習慣を定着させていくこと、市場での新しい競争軸を見出していくことが必要です。ビルコムではtoB、toC問わず、幅広いお客様の支援実績がございます。PRのお悩みをお持ちの方は、お気軽にお問い合わせください。

 

(書き手・ビルコム株式会社 高橋)

 

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